ホームレスから父に成る!

ホームレスだった男の育児と日々の雑感

ある中国人の善性

休日、どこか遊びに行こうかと息子に訊ねると

どーぶつこうえん!と言う。


天気も良く上野公園を歩くには

いい日和だ。



上野公園に着くと

息子が文化会館前の水路のような池に捕まり動かない。


水面をじっと見つめては

落ち葉を入れたり小石を入れたりしている。


駅から動物園に向かう休日の往来だ。

たくさんの子供達がいる。


水の中に何かいるのかと息子に釣られ

何もいない水面を子供達が覗き込んでいる。


息子の近くに寄ってきた子が

私を見上げて唐突に言う。


ぼく4歳になったんだよ。


見れば息子の背丈と同じか若干低いくらいだ。

本当だろうかと訝しんだが

確かめる術も無く子供は走り去った。


息子が大きく成長していると

思っておく。



その後も息子は

交番に捕まり

噴水に捕まり

子供広場に捕まりして

なかなか動物園に辿り着けない。


家を出発してから3時間が過ぎただろうか。

このとき私はすでに疲れていた。


医者からは難病のためか

人より2割ほど体力が少ないと告げられている。


子供広場に近いトイレの個室で用を足す。

小用でも座ってするのが私の習慣だ。



時刻は正午をすでに回り、腹も空いている。

動物園に入って何か食べようと促すと

息子は応じてくれた。


溢れかえるように並ぶ人の列に閉口しながら

そうしてようやく動物園に入る。



動物園に入ると

まっさきに象が出迎えてくれる。


息子が象を見たいというので

ベビーカーから抱き上げる。


息子は象の鳴き声を真似て見ている。


私はベビーカーに鞄を掛けてあるのが気掛かりで

背負っておこうとベビーカーに振り向くも


鞄が無い。


さっと血の気が引く。



鞄の中には

数年後の投資用に貯め始めた通帳と

引き落とし可能な実印が入っている。


象を見るため抱き上げた一瞬では

鞄を盗られる時間はない。


慌てて思い巡らせると

子供広場のトイレのドアに掛け忘れたことに気付く。



息子にベビーカーに戻ってもらい

子供広場のトイレに走って戻る。


トイレを出てから象を見るまで

20分かそこらだったろうか。



トイレに鞄は無かった。


目の前が真っ暗になるとはこのこと。

疲れて集中力が切れ、鞄を忘れたことを悔やんだ。


通帳から引き落とされる前に

銀行に連絡しなければならないと考えたが


一縷の望みを持って

上野公園内にある一番近い交番を訪ねた。




信じられなかったが

交番に私の鞄が届けられていた。


通帳と印鑑もある。


交番の警察官が曰く

中国人が届けてくれたよとのこと。




その言葉に大きな衝撃を受けている。


テレビでの報道や

ウェブ上で見る中国人は

落とし物を警察に届けるイメージが無かったからだ。


知らず知らず情報に毒されていたのだろうか。

もちろん十把一絡げには言えないが。


今日、ある中国人に善性を見た。


同時に自身のカテゴライズし偏っていた見方を恥じた。


警察から鞄を受け取り

顔も名も知らぬ中国人の善意に感謝した。


そしていつか

日本に来て困っている中国人を見た日には

なにか恩送りをしたい。




もう一度、溢れかえる人の列に並びチケットを買い

息子と動物園を夕暮れまで回った。


帰宅は19時を過ぎて

体力精神共に疲れた。


反省の多い1日だった。


ありがとう。