ホームレスから父に成る!

ホームレスだった男の育児と日々の雑感

4歳児と コクワガタ

昼食時


私は仕事中に見つけたコクワガタを

透明プラスチックの小さな虫入れに入れる。


なんだなんだと

4歳児と1歳児が覗き込む。


彼らが図鑑や動画以外で

クワガタを見るのは初めてだ。




4歳児は目を輝かせ

コクワガタを見つめる。


なぜ少年は

カブトムシやクワガタに

胸を熱くするのだろうか 。


昼食を済ませ

私は仕事に戻る。




ほどなくして

100円ショップで

コクワガタの住処用に

木片や虫用ゼリーなどを買う。


100円ショップでは

木片や落ち葉がビニール袋に詰められ売られている。


東北の山村で育った私には

落ち葉を買う感覚が理解できなかったが

コクワガタが長生きできればと思い購入した。


かくしてコクワガタは

住処を手に入れた。



しかしコクワガタは

木片やら落ち葉に隠れして

日中に姿を見せず


そのうち4歳児は

コクワガタに興味を失った。


「このまま箱に入れといても可哀想だから

逃してあげないかい?」


私の声掛けに

4歳児は強く拒否を示す。


「えー、やだよー。

ぼく、もっと、かんさつしたいんだ。」


手に入れた虫への

執着する少年の気持ちは

私にも理解できた。


「、、そうかい。

、、まあ好きにするさ。」


私は少年の気持ちを尊重した。




虫用ゼリーが乾いてしまう懸念から

3日めで1個を新しく取り替えようと

かみさんに伝える。


100円で買った虫用ゼリーは20個もあり

使い切るまでには夏が終わる。


そうして昆虫ゼリーの4個めを取り替えた頃


1日に1度も

コクワガタに目をやることもない4歳児に

私は再び声掛けする。


「このまま箱に入れといても可哀想だから

逃してあげないかい?」


4歳児はやはり難色を示す。


「えー、ぼく、やだよ。

エサがあるんだから、いーじゃん。」



私は冷えたコーラをカップに注ぎ

ぐいとやっては間を取り

4歳児に改めて問い掛ける。


「たしかに食べ物には困らないかもね。

でもね、◯ちゃん。


大して美味くもない御飯を毎日食べさせられて

1日中を部屋に閉じ込められて遊びにも行けないの

◯ちゃんは嫌じゃないかい?」



私の言葉に

4歳児は考えている。



「◯ちゃんは、おっとーや

おっかーや、☆ちゃんと離れて

1人だけ、どこかに閉じ込められて

御飯だけ食べて生きていきたいかい?」


「、、、いやぁ、。」


4歳児は弱く返答する。


「そうだね。

コクワガタもきっと

家族や友達や好きな人と一緒に

生きたいんじゃないかな。」



4歳児は短く考えて

明るい声で私に伝える。


「わかったよ。

ぼく、クワガタを放してくる。」




小さな生物たちを飼うことで

彼らがどう成長するかを考えたい。


虫をつぶさに観察し

その死を見届け

死が何かを学ぶ標べとするのもいいかもしれない。


しかして彼はまだ4歳だ。


死を知る前に

生物としての生き方を知ってほしい。


クワガタが

昆虫ゼリーを食って

寝るという話ではない。


それが生物としての生き方だと

4歳児に思ってほしくない。




18時過ぎ


その日は丁度

町内会の祭が催されていた。


太鼓の音を背に

4歳児は静かな公園の樹木の根元に

静かにコクワガタを放す。


しばらく動かなかったコクワガタは

木片から巨大な樹木へと移り上り始める。


私と4歳児は見つめ合い

笑顔でコクワガタを見送る。




4歳児と共に

町内会の祭に顔を出す。


同じ地域に暮らす町内会の方々に挨拶して

祭を楽しんだ。


4歳児は買ったばかりのブルーハワイをやりながら

舌を青くして云う。


「ぼく、おまつり、だいすき!」



私は彼の言葉を嬉しく思う。


コクワガタは樹木を高く上り

私たちは暑い祭をあとにした。



ありがとう。